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平成21年度 現代の名工に選出された大海酒造(株)取締役杜氏「大牟禮良行」さんに話を聞く

平成21年度の現代の名工に選出された、大海酒造(株)取締役杜氏「大牟禮良行さん」に出演していただいて、お話をうかがいました。いろいろなエピソ-ドを交えての話の中に、焼酎造りの奥深さが伝わります。

(前原)今日は、現代の名工に選ばれた方をスタジオにお迎えしています。
2021年度の現代の名工は、工芸、調理、衣服など各分野で卓越した技能をもつ全国150人を、厚生労働省が選出しました。
そして鹿児島県からは、焼酎製造をされている大牟禮良行さん、鹿屋市、そして広告美術工の塩津洋一さん鹿児島市、お二方が選ばれました。
その中のお1人、大海酒造(株)取締役杜氏「大牟禮良行」さんです。
大牟禮さんお久しぶりです。おめでとうございました。

(大牟禮)ありがとうございます。

(前原)大牟禮さん、私、現代の名工と言われる方々って、80代の方々っていう風なイメージだったんですよ。大牟禮さん、お若いですよね。

(大牟禮)若いっちゃ若いですね。まあ67歳なので。

(前原)でしょう?
それで、現代の名工に選ばれるなんて素晴らしいですね。
現代の名工に選ばれたときの、自分の気持ちってどうだったのですか?

(大牟禮)そういうお話が前から何回かちょこちょこはいただいてたんですけど、柄にも似合わないことには手足を突っ込まないという気持ちでいたんですけど、焼酎業界の皆さんとか、これに携わっているいろんな人が、皆さんが推薦してくれたり、推薦文を書いてくださったりしてたので、そのおかげでありがたく受賞することができたんですね。

(前原)いやいや、それだけじゃなくて、もう周りから本当に認められているということなんじゃないでしょうか。

(大牟禮)そう言ってもらって、本当嬉しいですね。

(前原)焼酎の世界からっていうのが、またですね。

(大牟禮)焼酎は、鹿児島県で私が4人目らしいですね。
宮崎県か熊本県にあと1人いらっしゃるらしくて、焼酎業界では5人目ということらしいです。

(前原)だから、すごいなって思います。
今、67歳でいらっしゃるということで、何歳のときからこの業界に入られたんですか?

(大牟禮)27歳で入って44歳の時に、その前の私の師匠が定年退職で辞めたので、私がその杜氏になったんです。

(前原)だから、若くて杜氏さんになられたということですよね。

(大牟禮)その時代は、まあ割りと若い部類ですね。

(前原)杜氏さんというと、熟練の、顔にもいっぱい深いしわができて、刻まれてきましたっていう方々っていうイメージだったんですけど、最初に大牟禮さんに会った時には、「若っ」て思いましたもん。
だけど、若くてもそれだけの技術をちゃんと学んでいらっしゃるので、歳じゃないんだなっていうのも改めて思いましたけど。

(大牟禮)私の場合は良い師匠がいたので、師匠のおかげで、いろんな技術っていうか、そういうのを身近で習ったので、それが良かったんじゃないかと思いますね。

(前原)お師匠さんというのは?

(大牟禮)今でいう南さつま市笠沙っていうところですね。そこに、杜氏っていう職人の技能集団がいるんですよ。
そこから大会酒造に来られた方だったので、その人の下で最初27歳で入って、タンク洗い3年から始まって、米洗いして、もろみの管理して、温度管理してっていうのを、1つずつ覚えていって、10何年かけてひとり前になるんですね。

(前原)10年以上ですもんね。

(大牟禮)ですね。それからまあ、だんだん杜氏さんの代わりができるようになったら、片腕みたいなってですね。
誰が杜氏になるかっていうのは、決まってないんですけど、最終的には杜氏さんと会社が、次は大牟禮がというふうに、指名みたいなことをしてもらえるわけですね。で、杜氏になるわけですね。

(前原)なるほど。その杜氏さんからのお墨付きがなければ、やっぱり。そこの杜氏さんにはなれない?

(大牟禮)ですね。結局は技術の伝承なので、技術の伝承ができるかできないかということが1番大事ですね。

(前原)すごいですね。技術の伝承は一朝一夕に受け継がれるものではなく、やっぱ10年以上の歳月が必要ということですね。

(大牟禮)やっぱり、モノを作ってるっていうのは微生物が相手なので、どうしてもその日その日の天気も違うし、温度も違うし、芋の出来も違うし、すべてが毎年一緒だということはまず無いわけですよ。
そういうのを自分の肌と勘で感じながら焼酎を作っているので、やっぱりなかなかそこに行くってのは難しいですね。

(前原)なるほど。日々も違うし、それからその年の芋の出来とかも、またちょっと違いますでしょうからね。
でも、その中でやっぱり味を前の年より、「んっ?」て思わせてはいけないわけじゃないですか。

(大牟禮)そうですね。私たちの場合は、8月のお盆過ぎから11月末ぐらいまで、4か月ぐらい焼酎作りするわけですよ。
4カ月位で、一年分作るわけじゃないですか。その途中で失敗でもしたら、一年間「まずい」って言うことを、ずっと言われ続けないといけないわけですよね。

(前原)そうですね。

(大牟禮)だからその4ヶ月間、本当に真面目に真面目というか、真剣にするのは当然なんですけど、神経研ぎ澄ませて焼酎を作るっていうのは、やっぱり自分たちのテーマなんですね。

(前原)ですよね。
8月からの一日のスケジュールって、もうずっとですか?

(大牟禮)蔵に寝泊りしてますもんね

(前原)ですよね。

(大牟禮)はい。だから、朝5時ぐらいから始まって夕方5時で終わることを前提に、朝早くからやるんですね。
で、夕方5時に上がったら、お風呂に入ってご飯食べて。
でも、もろみはちゃんとあるので、6時、7時、8時、9時って、もろみの温度を見たり、温度が上がってたら水出して冷やしてまた混ぜてみたり。
また、夜中の一時ごろ起きて、またそれを管理する。
それを毎日、そのサイクルをしてますね。

(前原)ということは、もう8月からはあまり寝られない?

(大牟禮)そうですね。まあ寝たり寝なかったりなので

(前原)寝たり寝なかったり。すごい。でもそれを、今までの杜氏さんって言われる皆さんは、されてるってことですもんね。

(大牟禮)そう。僕らの仕事は普通にそれが当たり前なので、4ヶ月から5ヶ月はみんなそういう仕事はするわけですよね。

(前原)その4か月、5か月の中で、1番大変な時期、これはもうっていう時期ってありますか?

(大牟禮)ありますね。10月の末ぐらいとか、11月の初旬ぐらい。

(前原)それは、どういう時期なんでしょうか?

(大牟禮)昔の季節の言葉で、女子(おなご)だまかしって言葉ありますよね。

(前原)女子(おなご)だまかし、はい。

(大牟禮)女をだますんじゃないですよ。
昔のお母さんとかが、10月の末になって寒くなったねっていう時には、冬支度をするじゃないですか。
だけど、またすぐ暑くなって、ちょっとまだ暖かいようって言って、冬物を引っ込めて夏物をまた出してみたりとかっていう。
そういう繰り返しの時期は、もろみの温度も上がったり下がったりするので、管理が難しいですね。
温度が下がったら暖めてあげないといけないし、逆に上がったら下げるっていう、そういうことを繰り返しながら、季節もずっと踏んでいくわけですね。
だからその時期の焼酎作りは1番苦労するけど、楽しい時なのかもしれないですね。

(前原)そうですか。じゃあ、そのもろみの状態で焼酎決まりますか?

(大牟禮)決まりますね。
温度が高くても駄目だし、低くても駄目だし。一定した温度っていうのが、毎年それぞれの時期で違いますよね。
だから一定のものはできない。でも、一定のものを作るようには努力するわけですよ。
だからよく『大牟禮さん、去年と味が変わったね』って言われることもありますよ。
その時は、ちゃんと言い訳考えてるんですね。

(前原)だって、本当に季節感も毎年同じじゃないし。
おなごだまかしの時期に、ちょうど暖かくなるといっても、相当気温が上がるときもあるし、そこまで上がらない時もあるわけじゃないですか。
それで寒くなる気温は、一定じゃないからですねえ。

(大牟禮)だから同じモノは、本当はできないんですよ。
だから。その時の言い訳は、「去年と今年の違いを味わってください」って言うんです。今年は今年の味を味わってください。

(前原)なるほど。
だけど、ずっと大海さんが飲まれているっていうのは、やっぱり前の年よりも美味しいって思ってくださってる方々がいらっしゃるっていう事ですね。

(大牟禮)そうですね。
だからやっぱり、進化しないとやっぱりいけないと思うんですよ。だから、進化するように努力はしますっていう事ですね。

(前原)焼酎で進化っていうのは、なかなか聞いたことがない言葉だと思うんですけど、焼酎って一定の味っていうのが、飲まれていらっしゃる方々は、もうもう身に染みているわけですよ。その進化っていうのは、どこがどうってことですか?

(大牟禮)例えば、今度受賞したことで新しい焼酎を作ったんですね。
それは、今までの芋焼酎の中でも、ちょっとリンゴのような香り、若しくはダフランスのような香りがするような、ちょっとフルーティなやつを作ってみたんですね。
それは、香りを出す酵母でアルコールを作る。それをいくつか試して、温度管理を考えながらやれば、そういうのができるんですね。まあ、できるっていうか、今年初めて挑戦したんです。
私の場合は、私の後継者の前田君がちゃんとしてくれるので、そういう研究部分のところを一生懸命しながら、お互いに仕事を分けながら一緒にやってますね。

(前原)じゃあ、焼酎づくりっていうのは、もろみの管理だったりとかの他に、さらに何かの研究をするってことですか?

(大牟禮)そうですね。大会酒造の根幹と言うのは、絶対変えないんですよ。
ここは絶対ぶれないものがあって、ここは変えないで、それに対する枝葉だけをちょっとずつ変えながら、違う焼酎を作っていくんですね。

(前原)なるほど。でもフルーティーさを出す研究って、何をどう研究するんですか?
企業秘密もあるんでしょう?

(大牟禮)そうですね。
例えば、焼酎は蒸留酒ですから、蒸発蒸留って普通の大気圧の中で、100℃で沸騰する蒸留の仕方もあれば、減圧蒸留といって、例えば富士山の頂上で御飯を炊いたら66℃台で沸騰しますよね。そういう釜の気圧を下げることで、早めに沸点が上がるので蒸留できる。
そういう焼酎は、どっちかといったらフルーティな焼酎になるんですね。
一般の100℃で沸騰するやつは、いろんな香り、ふくよかな香りも出るし、雑味も出るんですけど、そういうのを区別しながらやっていくんですね。

(前原)そうですか。杜氏さんって研究者でもあるわけですね。

(大牟禮)そうですかね。

(前原)ですね、研究者であって、技術者であって。
今、前田君っていうお名前が出てきました。自分でも杜氏をやりながら、ちゃんと育ててもいらっしゃるってことですね。

(大牟禮)そう。やっぱり僕らの仕事は、焼酎を作ることは、人を育てることなんですね。
人を育てる事が出来れば、そこの蔵の技術が上がるので、うまい焼酎ができる。みんながレベルアップする。
一人だけではできない仕事だし、一人だけで仕事をすることもない。みんなで仕事をしていくので、やっぱし酒づくりは人づくりなんですね。人づくりが酒造りなんです。

(前原)どこかのコマーシャルで聞いたことがあるんですけど、酒づくりは人づくり。本当にそうなんですね。
私は、お酒を飲むのは人だけど、人を育てるというのはどういうことなんだろうって思ってたんです。

(大牟禮)そういうことだと思います。
技術力を上げるためには、いろんな仕事のことを、やっぱり皆が知っていることですね。

(前原)いやあ、人を育てるですか。深いですね。

(大牟禮)深いですね。なかなか難しい。
人間の五感っていうの皆それぞれ違うので、自分が甘いと思っても、人は甘いと思わないかもしれないし、渋いといっても渋くない、辛いかもしれない。
でも、そういうのをやっぱり少しずつ皆が、同じ認識をして行かないといけないですね。
大海という焼酎を作っていくには、皆同じような五感になっていること、利き酒をしながらそれを同じようにしていることが、いい酒を作ることだと思いますね。

(前原)うわー、そりゃ、すごいですね。五感。
例えば、あの辛いものとか食べたりはしないんですか?

(大牟禮)利き酒っていうのは、朝8時半ぐらいからするんですよ。
だから、前日から辛いものは食べないし、そんな感じですね。
普段は食べますけど、利き酒を明日するよって時には、あんまり夜更かしもしないし、そんな感じでやります。

(前原)やっぱり、自分の体のメンテナンスをしてから利き酒をするんですね。

(大牟禮)そうですね。やっぱしね、夜、前日飲み過ぎたらわかんないですもんね。

(前原)そうですか。いや、すごいですね。
時代が流れて、海外にも焼酎がいったりして、飲み方も変わってきているでしょうが、やっぱりお酒づくりの根幹は人づくり、人を育てることなんですね。

(大牟禮)焼酎業界が長く続くためには、人が育っていかないと無くなっちゃいますもんね。作る人がね。
すべてが、コンピューターでできるわけじゃないのでね。やっぱり、人の手が入らないとできない仕事ですからね。

(前原)ですね。素晴らしいですね。
大牟禮さん、今年の焼酎なんですけど、新焼酎は出ましたか?

(大牟禮)新焼酎が出ました。

(前原)新焼酎どうですか?

(大牟禮)今年の焼酎は、かなり美味しく出来てます。

(前原)本当ですか?

(大牟禮)はい、もう期待してもらっていいですね。

(前原)だって、世間はもうサツマイモが無いっていってます。

(大牟禮)そうですね。サツマイモはもう無いんですよ。実を言うと。
いつもはちょうど今の時期はまだやってるんですけど、大会酒造の焼酎造りは終わっちゃってるんです。
基腐れ病っていう病気が畑の方も蔓延しちゃって、農家さんも本当に大変な状況で仕事をされています。
なかなか、僕らが手助けができない部分があったりするんですけど、やっぱし農家さんたちにも来年も芋を作ってもらう為には、やっぱそういうことをまたいろいろ考えていかなきゃいけないのかなって思いますね。

(前原)対策は、しないといけないですよね。鹿児島県は、サツマイモの国ですもんね。

(大牟禮)芋があって、はじめて焼酎できますからね。

(前原)そういうことなんですよね、
でも、美味しい焼酎ができているんですね。

(大牟禮)そうです。本当にいいのが出来ているので、12月初旬か中旬ぐらいには出すことができるんじゃないかなって思っているので、またその辺も楽しみにしていただければいいのかなって思います。

(前原)フルーティーだったら、なんかいいですね。食前酒にもいいかもしれないですよね。

(大牟禮)はい。まあ、そういうのをね、目指してきた部分もあったので。
新しい焼酎を作るに当って、鹿児島県の工業技術センターの先生たちにも、いろんなアイディアとか意見を聞いてやってきたので、まあそういう意味でも、また期待して頂ければいいなと思ってますね。

(前原)なるほど。分かりました。今日は現代の名工、大海酒造株式会社の取締役杜氏、大牟禮良行さんとお話をさせて頂きました。本当におめでとうございました。

(大牟禮)有難うございました。

(前原)これからもぜひ、美味しい焼酎を私たちにお願いします。

(大牟禮)ありがとうございます。

(前原)どうもありがとうございました。